
回転式のマルチペンは、透明軸で見るとその機構を楽しむことができます。回転させると、代わる代わるそれぞれのユニット尾部が「山」を登り、「頂点」に立ち、「山」を下って行く様子は、見ていて飽きません。このあたりは、スライドレバー式や振り子式よりも美しい機構かもしれません。
MONO graph MULTIのクリップを外した状態(右上が先端側)。グレーのパーツが「山」で、白のパーツが「登り下り」する可動ユニット。「山」の頂点には窪みがあり、この窪みにはまると、ユニットは固定される。回転式には、「行き止まり」があるタイプと、「行き止まり」がなくいつまでも回し続けられるタイプがあります。シャーボXは行き止まりがないタイプです。回し続けられるタイプのメリットは、例えば三色の場合、ユニットをA→B→C→A→B…と回せるので、CからAに替えるのが一回で済む点です。行き止まりがあるタイプでは、戻ってC→B→Aと回さなければなりません。

この二本はどちらも、三つのユニットを持つ透明軸の回転式ですが、uni Colorの三色シャープ(画像下)は「行き止まり」があるタイプで、プラチナのダブルR3アクション(画像上)は「行き止まり」がなく回し続けられるタイプです。この二本を見比べてみると分かるのですが、基本的な構造(ユニットを出す仕組み)において両者はほとんど違いはなく、uni Colorの方が両端でそれ以上回らないよう可動部を突起で抑えるようになっている、という点ぐらいにしか違いはありません。
上で述べたように、場合によっては「戻って、一つ(またはそれ以上)のユニットの出し入れを経由して替える」のは面倒なので、同じ構造にも関わらず、なぜあえて「行き止まり」を作るのだろうかと思ってしまうのですが、この「行き止まり式」にもメリットがないわけではありません。両端のユニットは、「行き止まり」まで回し切ることで出てくるので、ついつい回し過ぎて山を「通過」してしまうことがありません。とりわけ、静音設計のシャーボXでは「頂点」に立ったユニットが「かっちり」と固定されているかどうか分かりにくいため(この「かっちり」は、頂点の窪みでユニットがしっかり固定される様子でもあり、その音でもあります)、先端を露出させたつもりで書いてみたら、先端が潜ってしまう…というケースが結構ありますからね。
ユニットを替えやすいか・先端を確実に出せるか・切替時の音が気にならないか…というそれぞれの要素は、どれかを取ればどれかを犠牲にしなければならなくなるのが、なんとも歯がゆいところですね。
オートのカプセル4。四つのユニット(0.5黒、赤、0.7黒、シャープ)を持つ回転式でありながら「行き止まり式」のため、0.5黒→シャープに替えるには、間に二つのユニット出し入れを挟まなければならず、まあ、このあたりがオートらしいところと言うか…。
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- 2018/05/15(火) 23:00:00|
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多色ボールペンや多機能ペンには、さまざまな種類の先端(ユニット)を出す/収納する機構があります。今回は、それらの機構について取り上げてみたいと思います。
上は無印良品の六角6色ボールペン(黒・赤・ピンク・オレンジ・水色・青)、下はイタリア製の10色ボールペンMAGIC 10-IN-1(赤・黒・青・茶・水色・オレンジ・黄・藤色・黄緑・ピンク)。MAGIC 10-IN-1は、後ろのスライドレバー部分を回して、出したい色のユニットに合わせて押し出す仕組み。まず多色ボールペンや多機能ペンで最もポピュラーな機構は、「
スライドレバー式」です。大抵は尾部に複数のスライドレバーがあり、出したい色のレバーをスライドさせて先端を出す仕組みです。この機構の利点は、出したい色を一度で確実に出すことができる点と、別の色の切り替えが一つの動作で済むことです。この確実さと切り替えが容易なこともあって、一つの軸に多数(とりわけ5つ以上)のユニットを入れたマルチペンのほとんどは、スライドレバー式を採用しています。難点は、どうも安っぽい作りのものが多いというのと、切り替え時の音が大きいという点でしょうか。かつて売られていたような、高級感のあるスライドレバー式のボールペンが現行品でも欲しいところです。
上はパイロットの振り子式4色ボールペン(黒・赤・青・緑)、下はドイツManufactumのボールペン3色(黒・赤・青)+ シャープペンシル(0.7mm)。パイロットの4色は4色入りとは思えない細い軸が特徴的。Manufactumの多機能ペンは、色表示ではなくドイツ語の表記(SCHWARZ・ROT・BLAU)なのがカッコいい。ちょっと高級なものになると、「
振り子式」があります。振り子式でよく知られているのは、なんといっても「LAMY 2000」の4色ボールペンでしょうか(あいにく私には買う機会がなく未だ所有していません…)。出したい色の表示を上に向けてノックするとその色が出てくるというなかなか凝った仕組みで、パイロットの多機能ペンで初めてこの機構を知った時は、自分が今見ている色表示をペンが知っているということに奇妙な感覚を覚えました。この機構では一つのノックボタン(と多機能ペンではリリース用のボタン)だけで複数のユニットを出すことができるので、軸のデザインがシンプルにできるメリットがあります。ただ、出したい色の表示をいちいち上に向けるのが思ったより面倒なのと、ペンによっては振り子が中でカチャカチャ音を立てるのが気になるのが難点です。また、違うユニットに切り替える時は、ノックボタンを押して収納→別の色の表示を上に向ける→ノックして出す、という作業が、スライドレバー式よりも手間がかかります。
上はゼブラのニュースパイラル2+S(ボールペン2色+シャープ)。中のボールペンリフィルは4Cで、シャープユニットはシャーボXと互換性があるので、0.7mmや0.3mmに変えることもできる。シャーボXにも採用されている「
回転式」は、前軸または後軸を回すことでユニットを切り替える機構です。この機構では、回し続けることができるものと回していると「行き止まり」になるものがあります。この機構上、隣のユニットを一つ以上「飛ばして」出すことができないので、4色(または3色+シャープ)以上になると、切り替え時に場合によっては何回も出し入れする必要があるのが面倒な点です。振り子式と回転式は、機能的観点と実用的観点から考えても、5色以上のものは恐らく作られていないかと思います。

ついでに、今回もうひとつ紹介したい機構があります。最近まで知らなかった機構なのですが、このボールペン、ノックをするたびに違う色(黒・赤)が交互に出てくる仕組みなのです(
movie)。この機構の正式名称は分からないのですが、仮に「
スイッチノック式」と呼んでおきます。これも振り子式同様、ノックボタン一つで複数色を出すことができるのですが、もしこれが三色以上になると、切り替えの際にはかなり面倒なことが想像できます。三色以上のスイッチノック式があったかは不明ですが、あったとしても実用的ではなかったろうことは容易に窺えます。多色ボールペンで一派を作ることなく、今では歴史に埋もれた存在になったのも由なしとしないのでしょうが、内部の作りなど、非常に興味深い機構ではあります。
それぞれの機構を見てみると、これこそが最高、というものが決してあるわけではなく、月並な表現ですが、それぞれに一長一短があります。マルチペンを選ぶ際には、切り替えがすぐ出来たほうがよいか、切り替え時に音が出ないほうがよいか、実際何色あれば十分か、好きな軸はどんなタイプか…などといった諸要素を挙げてみて、その中で自分にとってどれを優先的な要素とするか考えて選ぶのが良いかと思います。
- 2018/04/18(水) 00:00:00|
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筆記具の「用途」は、書くこと以外にもあると私は考えています。とはいえ、書くことを本来の用途とするなら、それはカッコ付きの「用途」となってしまうのかもしれませんが。例えば会議などで多機能ペンを持っているとき、筆記以外の場面ではどうしているでしょうか? 軸を指で撫でてみたり、シャーボだと右に回したり左に回したり、ノック式だとノックで先端を出したり収めたり、スライドレバー式だと代わる代わるレバーをスライドさせてみたり…。手持ち無沙汰なときは、そんな感じでペンをいじってしまいます。
スライドレバー式のポピュラーなタイプ。上はパイロットのフレフレビートニック、下は日光ペンの多色ボールペン。フレフレビートニックは、多機能ペンでありながらシャープユニットはフレフレ式になっている珍しいタイプ。日光の多色ボールペンは3つのレバーがあるが、その内2つは黒(0.7、0.5mm)。
軸の中ほどにスライドレバーがついているタイプ。上はKANOE(森田製作所)の2色ボールペン、下はウィルソン4色ボールペン。ウィルソンのボールペンは、昔のスライドレバータイプをモチーフにしたもので、現在も雑貨屋などで手に入る。見た目は高級そうではあるが、天冠部分がプラスチックでしかも塗装が剥がれやすい。いずれも4Cリフィルを使用できる。
振り子式の多機能ペン。上はパーカーのベクター3in1、下はパイロットの初代2+1。ベクター3in1は横のボタン、初代2+1はクリップの付け根部分を押すことで、先端を収納することができる。ベクター3in1はシャープユニットが珍しい0.7mm。初代2+1は1977年5月発売で、実は初代シャーボ(1977年12月発売)よりも早く発売されている。ステンレス軸に蝕刻加工のグリップが美しい。このように筆記具には、書くという側面以外にもfidget(手すさび)としての側面もあると言えるでしょう。むしろ、軸の質感やギミックは、フィジェットにおいてこそ味わえると言っても過言ではありません。それは本来の使用ではないとか、筆記具の本質ではないとはいっても、決して見逃せない要素だと思います。場合によっては、筆記よりもフィジェットとして接する時間の方が長いことだってあるはずです。
初代シャーボとシャーボX LT3。LT3はボールペンユニットが2色あるが、軸の長さや太さは、ボールペンユニット1色の初代シャーボとほぼ変わらない。シャーボを象徴する初代シャーボの格子カッティングは、シャーボXでもラインナップしてほしいところ。フィジェットの観点から考えると、このシャーボXは非常にありがたい作りになっています。上で挙げた例でいうと、ノックボタンを押したりレバーをスライドさせるとき、音が出るのが困りものです。誰かが会議中や電話で話しているとき、手持ち無沙汰にカチャカチャ音を立てている人がいると、どうしても音が気になってしまいます。これはシャーボの他のモデルにしても同様で、右に回してカチッ、左に回してカチッ、というのがやはりノイズになってしまいます。その点、シャーボXだと先端を出すときにも音が出ないので、いくらいじっても周りに迷惑をかけません。しかもシャーボXは、従来の「右に回すとシャープペンシル、左に回すとボールペン」とは違い、一方向に回し続けることができる(リレー式に先端が出る)点で、フィジェットの選択肢も広がります。

実はもう一点、シャーボXには「いじってしまう」箇所があります。シャーボXのクリップはバインダークリップなんですが、これもついつい指で開いたりしてしまいます。とはいえこれはおすすめできません。私も調子に乗って(?)何度もクリップをこじ開けていたら、クリップのバネが若干緩んでしまいました…。くれぐれもフィジェットはほどほどに。
- 2018/04/10(火) 00:00:00|
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最近よく使うペンというか、まあ、仕事場はマニアの思いを込めたペンケースなど持っていけるような様子ではないので、これ一本あれば間に合うかと思いポケットに入れているうちに、なりゆきで「一日の中で一番よく使う」ようになったのが、この「シャーボX LT3」です。「間に合わせ」のように書きましたが、もちろん適当に選んだわけではなく、もともとお気に入りの多機能ペンなのは言うまでもありません。
軸の色はハーブグリーンで、現在は廃番色となっています。私がシャーボXのシリーズで好きなのがこのLT3のシリーズで、他にもオレンジフレイムやカーキといった色の軸が出ていました。

表面はマット仕上げになっています。ブラックではよく見かける加工ですが、それ以外のこういった色でマット仕上げになっているのは、非常に珍しいのではないでしょうか。
カラー軸とはいっても派手な色ではなく、表面加工と相俟って落ち着いた風合いになっています。私がとりわけ気に入っているのは、他のシャーボXのシリーズや他のメーカーのものとは違い、先端から尾部、クリップに至るまで一色で構成されているところです。余計な飾りもなく、落ち着いた感じを台無しにするようなキラキラしたパーツも使われていない。現行のLT3はクリップがシルバーの鏡面仕上げになっており、そこになにか「落ち着きのなさ」を感じてしまいます。ちょっとだけ難点を言えば、このハーブグリーンやオレンジフレイム、カーキなども、クリップが光沢仕上げになっているのが残念なところでしょうか。
これは伊東屋で現在(2018年4月)オリジナル販売されているシャーボX。LT3と同モデルで、赤軸と黒のクリップがマット仕上げ。他のLT3の色に比べて鮮やかだが、それでも落ち着いた感じの仕上げになっている。
つや消し加工ではありますが、使っているうちに、それなりにつやが出てきました。もちろん表面がツルツルという訳ではなく、ザラザラした表面が、使いこんでいくうちに「こなれて」くる感じというか。木軸の筆記具もそうですが、このこなれて手に馴染んでくる過程こそ、実はマット仕上げの筆記具の醍醐味なのかもしれません。この感触は、例えば研磨剤やみがきクロスなどで同じようにつやを出しても、手に馴染むまでの時間を待たなければ得られないものだと私は思います。
そんなわけで何回かに分けて、このシャーボXや、マルチペン全般について書いていきたいと思います。
- 2018/04/03(火) 00:00:00|
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